ある日、こんな夢を見た。
「お客様を地獄体験ツアーにご案内します」
目の前に見知らぬ男が立っている。
男の頭にはまるで作り物のような角が生えていた。
「あなたは死後、地獄に行くことになっていますので、今から体験してもらいます」
男はそう言って私を地獄の釜に案内した。
地獄体験ツアーは次の日も、また次の日も続いた。
私はその角の生えた男に泣きついた。
「頼む、金なら払うから、地獄ではなく天国に行かせてくれ!」
「そう言われましてもねぇ……。まぁ、確かにお客様は善行と悪行がちょうど半分くらいで、ちょーーーっと悪行に傾いている感じですからね。なんとかできないこともないですが」
「た、頼む!」
「仕方ありませんねぇ。まぁ、確かに地獄に行くのと天国に行くのとではそれこそ天と地ほどの違いがありますからね。あははは!」
男は楽しそうに笑った。
「ではお金はこの口座によろしくお願いします」
私は朝目覚めた後、指定の口座にお金を振り込んだ。
その数日後、私の元にお迎えがやってきた。
それは天使だった。
「これから天国に参ります」
細やかな光をまとった天使が私に言った。
「あぁ、金を払っておいてよかった」
私が思わずそう言いながら天使の手を取ると、天使が言った。
「あぁ、それは人間界で流行っている詐欺ですよ」
「詐欺!?」
「はい。サブリミナル効果を使っているんです。サブリミナルって知っていますか?」
「……潜在意識に訴えかけること、だろう……?」
「そうです。様々なサブリミナル効果を使って地獄を体験しているような夢を見るように仕向ける、というわけです。その後、指定の口座にお金を振り込めば天国に行けますよーとかなんとか言ってお金を巻き上げるというわけです」
「そんな……!」
「まぁ、いいじゃないですか。どうせお金なんて天国には持っていけないんですし」
私は天使に慰められながら空を昇った。
「あぁ、それと」
天使がこちらを振り向いて言う。
「そうやって人を騙すような輩は間違いなく地獄行きですのでご安心を。じゃ、行きましょうか」
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