人事部に呼ばれ「応援に行ってくれ」と言われた。
目の前が真っ暗になる。
この会社で「応援」と言えば応援部のことだ。
各部門の応援をする、いわばなんでも屋である。
この会社には昔、「応援部」という部署があり、その名の通り発声や楽器による応援をして社員の士気を高めていた。
しかし今では実際の応援はなくなり、各部署の手が足りていない時に応援にいく遊撃隊のような部署になっている。
「産休で人が少なくなってね。期間限定だから頼む」
そう言われた僕はこの世の終わりのような気持ちで応援部に向かった。
応援部の岡島部長から業務の説明を受ける。
各部署を周り、士気の落ちている社員を褒めたり激励したりすることによって士気を上げるのが主な業務だと言う。
そしてもちろん人が足らない部署へ応援に行くのも大事な業務だ。
時に弁当の手配なんかもやるらしい。
僕は本当にいやいや応援部の業務を始めた。
だが、始めてみると応援部の業務は面白かった。
人の求めていることを考え、先回りして行う。
すると社員から感謝される。
これはまさに仕事の本質ではないか。
僕は岡島部長の元、応援部の業務にのめり込んだ。
そんな充実した応援部での日々はあっという間に過ぎ、応援期間が終わってしまった。
僕はあれだけ来るのが嫌だった応援部の送別会で、情けないことに泣いてしまった。
もっとこの場所で仕事をしたかった。そんな純粋な気持ちから出た涙だった。
送別会があけて、次の日。
僕は日々の習慣で思わず応援部に向かってしまった。
オフィスのドアを開けてようやく気がつく。
もうここに僕の席はないのだ。
「あっ……。失礼しました」
そう言って退室しようとする僕の肩を岡島部長が叩く。
「どこへ行く? ここが君の席だろ」
「え、いや……」
「昨日人事に直談判してね。君にここに残ってもらうことにした」
「えっ」
「今度からは応援要員としてではなく応援をしてくれないか」
岡島部長はよく分からいことを言って笑みを浮かべたのだった。
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