反響定位

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 コウモリは超音波を発し、その反響によってまわりの物の位置を把握するらしい。

 だから夜の闇の中でも自由に飛び回れるというわけだ。

 これは裏を返せば、超音波の反響によって自分の位置を把握しているということだ。

 その話を聞いて、僕も同じだ、と思った。

 僕は超音波を発することはできないが、別の方法で自分のことを把握する。

 別の方法とは、つまりSNSへの投稿だ。

 SNSへ何事か投稿し、その反響によって自分という人間を知ることができるのだ。

『ほんと優しいよね!』

『グルメだよねぇ』

 そんな反響が僕を形作っていく。

 だから、しばらくSNSへの投稿を控えると、頭がぼんやりしてくる。

 僕は本当に生きているのか?

 自分という人間が分からなくなってくる。

 早くSNSへ投稿をしなければ。

 あれ。

 投稿したのに、誰からも反応がない。

 一つもいいねがつかない。

 誰か……誰か反応してくれ!

 反応がないと、自分が誰だかわからなくなる……。

***

 私は研究室でため息をついた。

 私の作ったコンピューター上の人格に少し負荷を与えたら、人格そのものが消えてしまったのである。

 私はこの実験の結果を、SNS依存に関する講義で発表するために資料を作り始めた。

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