一時期、小学校でにらめっこが流行った。
そんな時、通学路の途中にあるバス停で、一人のおじさんが変な顔をしているのに気づいた。
「何をしているんですか?」
思わず話しかけた僕に、おじさんは「にらめっこの練習をしているんだよ」と言った。
おじさんの顔はすごくおかしかったので、僕は「教えて!」とおじさんに頼み込んだ。
おじさんは、いいよ、と言って僕に変な顔のやり方を教えてくれた。
何度も会ううちに、おじさんは新作を作って教えてくれたりした。
そのおかげで、僕はにらめっこにおいて無敵になった。
しばらしくして、学校でにらめっこが廃れていって、それからおじさんにはあまり会わなくなってしまった。
おじさんと再会したのは、大人になってからだった。
再会といっても、直接会えたわけじゃない。
新聞に訃報の記事が載っていたのだ。
おじさんは俳優だった。
個性派俳優ということで、一部に熱狂的なファンがいたらしい。
新聞には、こんなおじさんのインタビューが載っていた。
「一人の子どもに変顔をねだられて練習するうちに、個性派俳優として映画やドラマなどに起用していただくことが増えました。あの子には感謝しています」
いつのまにかバスが行ってしまっていた。
「おじさん、どうしたの?」
小学生くらいの子どもが心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
心配をかけるような顔をしていたのだろう。
僕は言った。
「にらめっこの練習だよ」
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