私は雲の上から、えいやと飛び降りた。
どうしても現世でやりたいことがあったのだ。
お化け屋敷で働いてみたい。それが私の数少ない夢だった。
生きている頃は勇気が出なかったが、何しろ今は本物の幽霊なのだからきっと歓迎されるだろう。
私はお化け屋敷に向かって採用の面接を受けようと思ったが、お化け屋敷の運営者といってもそもそも幽霊が見えない人ばかりで、面接にすらたどり着けなかった。
諦めきれない私はたくさんのお化け屋敷をめぐり、ようやく話を聞いてくれる人に巡り会えた。
そこは地方にある遊園地の中のお化け屋敷だった。
お化け屋敷の運営者らしき女性が言った。
「確かに、幽霊なんだから素質は十分だし、働かせてあげてもいいんだけど、幽霊が見えるお客さんばっかりでもないからなぁ……ん、そうだ!」
その人は今働いているおばけ役の人をみんな別のアトラクションに追いやって、私だけをお化け屋敷に配置した。
そして「本物が出るお化け屋敷」と銘打ってお化け屋敷をリニューアルした。
その思い切った改革が功を奏し、興味本位の人たちがお化け屋敷に詰めかけた。
幽霊が見えない人にとっては何でもない場所らしいが、なんとなく不穏な雰囲気は感じ取ってもらえたようだった。
そして何より、本当に見える人にはお化けの扮装をした私が見えるので、私のことを見てくれた人たちが「本物だ」と口コミを広めてくれた。
お化け屋敷は爆発的な人気スポットとなり、長蛇の列ができるようになった。
話題はあの世へも届いて、私以外にもたくさんの幽霊が働きに来た。
またテレビの取材が来ているようだ。
遊園地のオーナーである男性がカメラを向けられてインタビューに答えている。
「いやぁ、こちらのお化け屋敷、素晴らしい人気ですね」
「えぇ、おかげさまで」
「この”本物が出るお化け屋敷”というコンセプトは、どなたが考えたんですか」
「それが……誰が考えたか分からないんです。誰に聞いても自分じゃないというし……」
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