スーパーボールのある居酒屋

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 僕は出張先の土地でため息をついた。

 今日はかなり大変だった。こんな日は地元の酒なんかをじっくり呑んで憂さを晴らしたい。

 でも、こんな辺鄙な所に飲み屋なんかないよな。

 そんな風に思いながら歩いていると、一軒の居酒屋を見つけた。居酒屋は田園風景の続く道の一角に、ポツンと建っていた。

 店の扉を開けて中に入ると、客は私だけだった。

 奥の座敷に通される。

 地酒と適当なつまみを注文する。

 うん、どれもうまい。

 と、屋敷の奥に見慣れないものが飾られているのを見つけた。

 それは……スーパーボールだった。投げると跳ねるあれである。

 追加の酒を持ってきた女将さんに「あれは?」と聞いてみる。

「うふふ、これはですね」

 女将さんはスーパーボールを手に取った。

「子どもが遊ぶんです。こんな風にして」

 女将さんが壁にポンとスーパーボールを投げる。するとボールは小気味よく跳ね返って僕の方へやってきた。

 僕も投げ返す。

 ポンポンとスーパーボールが跳ねる。

 なんだか少し、酒が回って、目が……。

 目を覚ますと、僕は田んぼに片足を突っ込んでいた。

 そこに居酒屋はなく、僕のポケットにはスーパーボールが一つ入っていた。

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