うちには地下室がありました。
そして地下室の壁に耳がついていました。
ある日、私がその耳をこちょこちょとくすぐると、家全体が大きく揺れました。
「地震だぁ!」
両親が慌てたように家から出てきました。
私が地下室から出ると、両親は「地下室の耳を触ったね」と叱りました。
両親によると、この家には最初から耳がついていたそうです。
お父さんは「まったく妙な家だ」と言っていました。
私はたまに耳に話しかけに行きました。
どうしても誰かに言いたいことを耳に向かって話したのです。
耳はじっと聞いているだけでしたが、それでも確かに聞いてくれているような、そんな感じがしました。
私が家を出ることになって、そのことを耳に話したら、両親が「水漏れだぁ!」と騒ぎました。
見ると、家にある蛇口という蛇口から水が漏れていました。
家を出てから長い時間が過ぎ、結婚を考えている彼を家に招きました。
彼には耳のことも話してあったので、耳に彼を紹介しました。
当たり前ですが、耳は何も言いません。
彼は耳を怖がることもなくバカにすることもなく、「よろしくお願いします」とだけ言いました。
それから彼は家でゆっくり過ごしてから帰りました。
駅まで送っていく時に、彼がこんなことを言いました。
「床暖房が入っているんだね。暖かかったよ」
私はくすっと笑いながら言いました。
「床暖房なんて入っていないのよ」
コメント