「随分値下がってるな」
僕の履歴書を見た面接官が顔をしかめる。
僕の履歴書には【右小指破損。-30,000円】などと値下がり状況が記録されている。
僕たちアンドロイドは製造された時に一番高い値がつく。
しかし様々な業務をこなすうちに必ず故障や破損が起きる。
その度に履歴書に値下がり状況が記録されていくのだ。
履歴書の改ざんは即廃棄処分となる重罪だ。
「まぁ……経験はあるようだし、いいか」
面接官は僕を採用してくれるようだ。
賃金はかなり落ちるが、贅沢は言っていられない。
またこの工場で頑張ろう……。
***
とうとう、僕は目も見えなくなった。
業務上の事故で体内に高圧電流が流れ、視覚回路が焼き切れてしまったのである。
他の五感回路もほぼ壊滅状態だ。声帯が完全に破損しているので声も出せない。
わずかに聴覚が残っているくらいである。
僕の値下がり履歴書は、きっともう欄が一杯になっているはずだ。
と、誰かがやってきた気配がする。
おそらく廃棄業者だろう。
業者が履歴書を見る音がする。
「ほほお、これはすばらしい」
業者はそんなことを言った。
工場長の声がする。
「本当にいいんですか? もう廃品同然ですよ」
業者が答えた。
「えぇ。値下がっているほどいいんですよ」
それから、指先にほのかに温かい感触を感じた。
「君、僕のところへ来てくれないか。よければ、ほんのわずかでいい、指の駆動部を動かしてくれ」
僕は指を動かした。
***
目を開けると、若い男の人が僕を覗き込んでいた。
「おはよう。気分はどうかな」
男の人の声は、あの廃品業者の声だった。
僕は自分の声帯が復元しているのを確認してから言った。
「はい、とてもいいです。ここは……?」
「ここは僕のラボだよ」
見ると、工具箱や機器類がたくさん並んでいる。
どうやらこの人は廃品業者ではないらしい。
僕は立ち上がり体の調子を確かめた。
どこもかしこも、まるで出荷当時のようだ。
男の人が言った。
「うん、よさそうだね。完全に調子が戻るまで、うちにいるといい」
そう微笑む男の人に、どうして僕を引き取ったのか聞いてみた。
すると彼はこう答えた。
「まだ駆け出しの身でね。腕を鍛える為に君のようなアンドロイドを探していたのさ」
彼がスパナをくるくると回しながら笑った。
「コーヒーでも淹れよう」
彼が部屋を出ていく。
僕はこっそりと自分の履歴書を確認した。
すると故障・破損履歴に大きく斜線が引かれ、こんな文字が追記されていた。
【天才技師(予定)によるリペアのため全て無効。出荷時より性能アップの見込みあり】
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