ある、幼い頃の記憶がある。
ある日を境に家の中が静かになった。
私は子供心に「何かが起きた」と悟った。
でも何が起きたのか、分からない。あるいは覚えていなかった。
そんな中、私はいつも以上に明るくはしゃいだ。
そうする必要がある、と思った。
大人たちはそんな私の頭を別の方向を見つめながら撫でた。
ある日、私はしんと静まり返った場所で眠った。昼寝だったと思う。
はしゃぎ疲れていたのだ。
ふと気がつくと、白浜を歩いていた。
海はなく、ただひたすら白浜が広がっていた。
そこは不思議なところで、ところどころ高い柱のようなものが埋まっていた。
柱の先端はギザギザに尖っているものもあった。
私が白浜を歩いていると、ふいに目の前の砂浜からざーーーと音を立てて大きな砂で出来た手が現れた。
私は恐ろしくなって逃げた。
しかし大きな手に追いつかれ、私はその手に持ち上げられた。
私を捕まえた大きな手は、その大きな指で私の頭をぬるりと撫でた。
あれは確かに、撫でたのだと思う。
私はその大きな手に持ち上げられて……。
気がつくと、私は暗い部屋で横になっていた。
私は家族の元へ走った。
あの記憶はなんだったのか……それを今、思い出した。
祖父が亡くなり、祖父の大きかった体が骨壷に収まった。
私があの幼い日に歩いた白浜は、この中だったのではないだろうか。
だとしたら、私は誰の白浜を歩き、誰に助けられたのだろう。
それだけは今も、思い出せずにいるのだ。
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